アンジェラ・カーターの本

最近はアンジェラ・カーターの本を読んでいる。アンジェラ・カーターの文章を読んでいると、とても 音楽的でありながら、頭いっぱいにイメージが広がって行く。このような文章を書ける人は少ない。声を出して読みたい文書だ。リズムの流れ方等も自然に音楽 のように言葉が聴こえてくる。そして、場合によっては、そのイメージを読む人の頭に描かせたい為に、正反対の意味の持つ言葉を隣同士にぶつけてしまう。
アンジェラ・カーターの文章は細かい。作曲にたとえるとアルバン・ベルグの曲のように、表現一つ一つに細かい表現がされている。
カーターはおとぎ話や民話・神話に基づいている物語を数多く書いている。彼女は、これを’demythification’と呼んでいる。それは神話から 非現実的な部分を削り落とし、現実的な本当の意味を見つめる事である。ローリー・アンダーソンはルー・リードについて、ルーの歌はダイレクトで刺激的だ が、とても美しく真実を表現出来る、と語っているのとも似ている。アンジェラ・カーターの文書はリアルでありながら、音楽的でファンタジーに満ちている。 なかなか、これはない表現だ。それも言葉で意味を書いているのだけではなく、サウンドを作り、頭で広がる絵のようなイメージを作っている。彼女の書く文章 はマジカル・リアリズムとも呼ばれている。そして、サルマーン・ルシュディーやジャネット・ウインターソンは、彼女の書き方に影響受けていると本人達が自 分で語っている。
’Demythification’は神話の分析とも似ている。ユングの後継ぎとなったMarie-Louise Von Franzのおとぎ話しの分析を思い出させるところがある。アンジェラ・カーターはヒッピー世代で1940年に生まれ、1992年に亡くなった。始め頃の 本では、ヒッピー世代の考え方の影響が強かった。しかし、70年頃にある文学賞を優勝した。それは外国で過ごすお金が賞金だった。彼女はそれを使って日本 に来た。それは、Judeo-Christian(ユダヤ教、キリスト教、最近ではイスラム教も含む)のように聖書の考えがあまり浸透していない国はどん なものかが知りたかったからだった。香港やシンガポールやマレイシアだとイギリスの領土であった期間が長く、英国の影響が出ている。日本は、そういう意味 でエイリアンの国だ。それは住み慣れている人には分からないかもしれない。
日本には来たが、その奨学金では、生活全てが出来なかった。多くの人は英語を教える仕事を見つけるだろうが、彼女はある情報の勘違いから銀座のバーのホス テスを2年間程やった。それは彼女の文学を変えた。人間が非常に現実的に成長して行った。イギリスに戻ると、彼女の書く文章にもその変化があきらかになっ た。1992年に亡くなるまで、世界中の大学に呼ばれるようになった。今では20世紀の英国文学の代表的な作家となっている。イギリスで高校から大学に上 がる時に取る英国文学のA level テストやO levelテストでもカーターの文学について書く人が多いために国家試験用の分析書も最近では発売されている。
また、イギリスの新聞Guardianでイアン・ブルマ( 数ヶ月前にfacebookで紹介した『Inventing Japan』等の作家)についてのエッセイ等を書き、それが今彼女のエッセイ集に入っている。
ドナルド・リッチ∸はアンジェラ・カーターについて素晴らしい文章を書いていて、それはリッチ∸のエッセイ集に入っている。
ドナルド・リッチーが書いているように、一つの土地だけで育ってきた人間は金魚鉢のなかで泳いでいる金魚のようなもので、自分のしている行動を分析する事 があまり出来ない。習らった事を周りの人間達と共有して、それを次の世代に教えるだけになる事が多い。しかし、金魚鉢からいったん出てしまえば、世の中が 変わって見えてくる。人が外国に行って、外国人として生きるというのはそういう事を学べる事もある。一度、元の国から離れ、どこか別の場所に行ってしまえ ば、その人の感覚は変わり、二度と戻らない。
江戸時代では、日本に住む人が海外に出てから、戻ろうとしたら死刑にしていたのは、人の感覚が変わり、二度と戻らない事に気が付いていたからだ。伝統文化 とは洗脳する方法で、それに気づく人は永遠に社会に戻れなくなる。最近、アメリカやイギリスで育った中東(アフガニスタン、イラク、パキスタン)の子供た ちが両親と同じ価値観を持てない事を親が理解出来ず、親が自分の子供を殺害してしまうという事件がいくつかあった。サルマーン・ルシュディーはこれをテー マに小節を書いている。アンジェラ・カーターがイギリスに戻ると、イギリスも別の目で見るようになった。より客観的になり、ラディカルな表現をするように なった。

このヴィデオの出だしでは彼女自身が自分で朗読している。他にもyoutubeでは、アンジェラ・カーターの文書を声出して朗読をしている映像にしてアッ プしている人が何人もいる。また、映画になっている作品もいくつかある。日本でも発売されているニール・ジョーダン監督の『狼の血族 』もその一つ。その映像はとてもきれい。
https://www.youtube.com/watch?v=81uU7TXH3YE